荒波の中のロマンティックな瞬間
華菜がふと目を覚ますと、そこは船室の中だった。
寝ぼけながら外を見ると、波が大きくうねるように船にぶつかっている。
「…お客様にお知らせいたします。ただ今、本船は南大東島に向けて動いていますが、海が荒れている影響により、通常よりも時間がかかる見込みでございます。また、この先、お客様には各船室内で待機するようお願い申し上げます。警戒アラートは発出されておりませんが、今後の海の状況次第では、発出される可能性がありますので、あらかじめご準備いただきますようお願いいたします。なお、子宝島で仕入れた酔い止めを、本船中央塔2階にある薬局から無料配布しておりますので、必要な方は、各船室のドアにある船員呼び出しボタンを押してください。アラートが発令されますと、船員呼び出しボタンを押しても、船員は緊急時以外はお伺いできませんので、あらかじめご了承ください。また、海の荒れ方によっては停電処置を行う可能性もございますので、電気が必要な入浴などは今のうちにお済ませください。現状のペースでは、次の島に到着するまで1日以上かかる見込みでございます。ご了承ください。」
華菜は船内放送を聞き終え、和弥を起こし始めた。
「和弥くん、おきて、和弥くん…」
「うむ…おはよう、華菜ちゃん…」
「お風呂、入ろう…」
和弥はふと気が付くと、なぜか自分の身体が汗でびっしょりであることに気づいた。
「入ろう…」
ときどき大きく揺れる船室で、二人は互いを支え合いながら洋服を脱いで、浴室の扉を開けて中に入った。
しかし、二人はまだ入浴の仕方を知らず、素っ裸のまま、とりあえずお風呂を沸かすことにした。
華菜はお風呂のスイッチを入れると、シャワーで自分の体を何となく流し始めた。
自分の体を流し終えると、ぼーっとしている和弥にもお湯を当てる。
二人がシャワーをしていると、お風呂が沸いた。
「入る?」
「うん…」
華菜は彼の返事を聞くと、シャワーのお湯を止めて、ゆっくりと足を上げて湯船に入る。
すると、揺れる浴室で彼の体を支えながら、湯船の中に彼を導き入れた。
「あっ、」
和弥がそう言うと、足が滑ったのか、身体が湯船に向かって思いっきり倒れ、湯船のお湯が跳ねる。
その水しぶきが華菜にかかり、彼女は少し笑いながら、二人はお湯を手ですくって互いにかけ始めた。
「楽しいね…」
「うん…」
いつの間にか、和弥の頬は真っ赤に染まっていた。
すると、突然、船に大きな音が響き渡り、浴室が真っ暗になった。
「…お客様にお知らせいたします。ただ今、海水が船内の排水口を逆走していることが検知されたため、電源が自動で消えました。これより警戒アラートを発令いたします。なお、復旧にはしばらく時間がかかることが予想されますので、お客様には各船室内で安全を確保するようお願いいたします。」
「電気が消えちゃった…」
華菜がボソッとつぶやいた。
和弥も「そうだね…」と、少し震えるような声で返す。
すると、船に大きな波が当たり、二人は大きく揺れた。
華菜はその衝撃で思わず彼に距離を詰めた。
「和弥くん…」
彼女は、その勢いのまま彼の唇に自らの唇を寄せた。
「うん…」
彼は暗闇の中でそれを感じ、応じた。
気が付けば、二人は暗闇に染まった浴室で、互いに抱き合っていた。