華菜と和弥の二人が片付けを終え、薫に声をかけていた。その時、船が港に入り、静かに停まった。
「この度は、東京諸島フェリーをご利用いただき、誠にありがとうございました。ただ今、本船は糸満に到着いたしました。またのご利用をお待ちしております。お手回り品をもう一度お確かめの上、お降りください。」
船内放送が終わると、三人は手をつないで下船した。
少し歩いた後、薫が振り返り、笑顔で言った。「これからあの車に乗って、この島を北上するよ。」
薫の指さした先には、4人乗りの軽自動車が停まっていた。「華菜ちゃんと和弥くんは後ろに乗ってね。」
そう言って運転席に座り、二人はゆっくり後部座席に腰を下ろした。
薫はシートベルトを締めると、自身のスマートフォンを取り出し、車内の専用ケーブルに差し込んだ。すると、システムの起動音が鳴り響く。
「こんばんは、薫さん。今回はどのようなご要件でしょうか?」
車のスピーカーから流れる機械合成音が、穏やかな夜を包んだ。「本部港まで、自動車道を経由したドライブを行う。」
「了解しました。ただ今、車のエンジンを起動中です。」
システム音の後、車がゆっくりと動き出す。「本部港までのドライブを開始します。ルートは那覇ICまで、国道と一般道を経由し、そこから沖縄自動車道を通り、本部有料道路を経て、本部町東ICで降りて、再び一般道を進みます。なお、運転モードはAIAutoにセットされました。」
車のスピードは次第に上がり、糸満の道を駆け抜けて行く。薫はふと後ろを振り返り、和弥と華菜がぐっすりと眠っているのを確認した。
彼女は別のスマートフォンを取り出し、小声で誰かと通話を始めた。三人乗りの車は、静かな夜道を進んでいた。