未来の姿を描くスケッチブックと秘めた想い
「お客様にお知らせいたします。まもなく、本船は沖縄本島、糸満に到着いたします。お客様は、お手回り品を一度お確かめになり、ご下船ください。この度は、東京諸島フェリーをご利用いただき、ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
船内放送が流れ終わると、華菜たちの部屋に薫が入ってきた。
「こんばんは、華菜ちゃん、和弥くん、降りる準備はできた?」
「えっと…、まだ…」
華菜は床に広がるスケッチブックを見つめながら言った。
「そう…、何を書いているの?」
その時、和弥はスケッチブックを見せまいと直感的に閉じた。
「どうしたの…?」
もじもじと恥ずかしがる和弥に、華菜はさらりと言った。
「そうね…、じゃあ、私は廊下で待っているから、船を降りる準備ができたら、声をかけてね…」
薫が出て行くと、二人はゆっくりとスケッチブックを開いた。
「どうしたの…?」
華菜が尋ねると、和弥は目でスケッチブックの中身を指し示した。
彼女はページをめくり始めた。スケッチブックには、二人の姿が描かれており、徐々にその姿は大きくなり、着ている洋服が破れ、素肌がさらけ出されて大人になった二人が、ベッドの上で一体となる様子で終わっていた。
「これは…一体なんだろう…?」
二人は、自分たちの未来の様子が描かれていることに戸惑いつつも、同時に恥ずかしさがこみ上げてきた。薫に見せられない理由を、何となく悟った。
「…こわいんだ…」
ふと和弥が小さな声でつぶやいた。彼女はその言葉を聞いて彼の方を見つめると、彼の目が潤んでいることに気が付き、とっさに抱き寄せた。しかし、今にも泣きそうな彼の表情を見た彼女は、抱き寄せた手を彼の背中に回し、そのままキスをした。
「だいじょうぶ…」
彼に抱きついていた彼女は、彼の思考がゆっくりと彼女に伝わってくるのを感じ、何となくその気持ちを理解した。
「この絵のことは…ないしょだよ…。」
彼女は彼におでこをくっつけ、そっとつぶやいた。